親の介護について考え始めたとき、何から手を付けていいかわからないという方は多いでしょう。介護準備の始め方を知ることで、いざという時に慌てることなく適切な対応ができます。
本記事では、介護費用の目安から施設選びのポイントまで、親の介護に備えるために必要な情報を網羅的にお伝えします。早めの準備により、ご家族皆が安心して介護に向き合えるようになります。
介護準備が必要な理由と現状
日本の高齢化の現状
2023年時点で、日本の65歳以上の高齢者は約3,600万人に達し、総人口の約29%を占めています。団塊の世代が75歳以上となる2025年問題により、介護が必要な高齢者数はさらに増加すると予測されています。
厚生労働省の調査によると、要介護認定を受ける人の数は年々増加傾向にあります。2021年度には約690万人が要介護認定を受けており、この数は今後も増え続ける見込みです。
介護が始まるきっかけ
介護が必要になる主なきっかけは以下の通りです。
- 脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)
- 認知症の進行
- 高齢による衰弱
- 骨折・転倒による身体機能の低下
- パーキンソン病などの神経疾患
これらの疾患や状態は突然発症することが多く、事前の準備がなければ家族が混乱してしまいます。
介護費用の基本知識
介護にかかる費用の種類
介護には以下のような費用が発生します。
介護保険サービス利用料
介護保険を利用した場合、原則として費用の1割から3割を自己負担します。所得に応じて負担割合が決まり、高所得者ほど負担割合が高くなります。
介護保険外サービス費用
介護保険の対象外となるサービスには全額自己負担となります。
- 家事代行サービス
- 見守りサービス
- 介護タクシー
- おむつ代
- 医療費
施設入所費用
施設に入所する場合は、以下の費用が必要です。
- 施設サービス費(介護保険適用)
- 居住費
- 食費
- 日常生活費
- その他実費
介護費用の目安
在宅介護の場合
要介護度別の月額費用目安は以下の通りです。
| 要介護度 | 介護保険サービス費 | 介護保険外費用 | 合計目安 |
|---|---|---|---|
| 要支援1 | 3,000円 | 10,000円 | 13,000円 |
| 要支援2 | 6,000円 | 15,000円 | 21,000円 |
| 要介護1 | 12,000円 | 20,000円 | 32,000円 |
| 要介護2 | 19,000円 | 25,000円 | 44,000円 |
| 要介護3 | 27,000円 | 35,000円 | 62,000円 |
| 要介護4 | 31,000円 | 45,000円 | 76,000円 |
| 要介護5 | 36,000円 | 55,000円 | 91,000円 |
施設介護の場合
特別養護老人ホームの場合、月額費用は要介護度や所得により異なります。
- 要介護1:月額80,000円~120,000円
- 要介護2:月額85,000円~130,000円
- 要介護3:月額90,000円~140,000円
- 要介護4:月額95,000円~150,000円
- 要介護5:月額100,000円~160,000円
有料老人ホームの場合は、入居一時金が数百万円から数千万円、月額利用料が15万円から30万円程度が一般的です。
介護費用を抑える方法
高額介護サービス費制度の活用
月額の介護保険サービス自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される制度です。所得区分により上限額が決まっています。
- 生活保護受給者:15,000円
- 住民税非課税世帯:24,600円
- 一般世帯:44,400円
- 現役並み所得者:93,000円
医療費控除の活用
介護サービス費用の一部は医療費控除の対象となります。年間の医療費が10万円を超えた場合、確定申告により所得税の還付を受けることができます。
介護保険制度の理解
介護保険の仕組み
介護保険は40歳以上の国民が保険料を支払い、65歳以上(第1号被保険者)または40歳から64歳の特定疾病患者(第2号被保険者)が介護サービスを利用できる制度です。
要介護認定の流れ
要介護認定を受けるには以下の手順が必要です。
- 市区町村への申請
- 認定調査の実施
- 主治医意見書の作成
- 介護認定審査会での審査
- 要介護度の決定
- 認定結果の通知
認定までの期間は通常30日以内ですが、実際には1ヶ月半程度かかることが多いです。
要介護度別利用限度額
各要介護度には1ヶ月あたりの支給限度額が設定されています。
- 要支援1:50,320円
- 要支援2:105,310円
- 要介護1:167,650円
- 要介護2:197,050円
- 要介護3:270,480円
- 要介護4:309,380円
- 要介護5:362,170円
親の介護準備で確認すべき項目
健康状態の把握
親の現在の健康状態を正確に把握することが介護準備の第一歩です。
定期的な健康チェック項目
- 血圧、血糖値などの数値
- 服用中の薬物
- 既往歴と現在の病気
- 認知機能の状態
- 身体機能の状態
かかりつけ医との連携
かかりつけ医との良好な関係を築き、親の健康状態について定期的に相談できる体制を整えましょう。介護が必要になった際の主治医意見書作成もスムーズになります。
経済状況の確認
介護費用を支払うための資金計画を立てるため、親の経済状況を把握する必要があります。
確認すべき経済情報
- 年金収入額
- 預貯金残高
- 不動産の所有状況
- 生命保険の内容
- その他の資産状況
住環境の整備
在宅介護を継続するためには、住環境の整備が欠かせません。
バリアフリー化のポイント
- 段差の解消
- 手すりの設置
- 滑り止めの設置
- 照明の改善
- トイレや浴室の改修
介護保険の住宅改修費給付制度を利用すると、20万円を上限として改修費の9割が支給されます。
介護サービスの種類と選び方
在宅介護サービス
訪問系サービス
- 訪問介護(ホームヘルプ)
- 訪問看護
- 訪問入浴介護
- 訪問リハビリテーション
通所系サービス
- 通所介護(デイサービス)
- 通所リハビリテーション(デイケア)
- 小規模多機能型居宅介護
短期入所サービス
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 短期入所療養介護
施設介護サービス
公的施設
特別養護老人ホーム(特養)は、要介護3以上の方が入所できる公的施設です。費用が比較的安い反面、入所待機者が多く、申し込みから入所まで長期間待つ必要があります。
介護老人保健施設(老健)は、在宅復帰を目的とした施設で、医療ケアとリハビリテーションが充実しています。
民間施設
有料老人ホームは、手厚い介護サービスと快適な生活環境を提供しますが、費用が高額になりがちです。
グループホームは認知症の方を対象とした小規模な施設で、家庭的な雰囲気の中で生活できます。
サービス選択のポイント
本人の状態に応じた選択
要介護度や身体状況、認知症の有無などを考慮してサービスを選択します。また、本人の希望や価値観も重要な判断基準となります。
家族の状況を考慮
介護する家族の仕事や健康状態、住環境なども考慮してサービスを選択する必要があります。
介護施設選びのポイント
施設選びの基本的な考え方
施設選びでは、本人の状態と家族の希望のバランスを取ることが重要です。費用面だけでなく、サービスの質や立地条件なども総合的に判断しましょう。
施設見学のチェックポイント
施設の環境
- 清潔さと明るさ
- バリアフリー設備の充実度
- プライバシーの確保
- 共用スペースの充実度
- 周辺環境の利便性
スタッフの対応
- スタッフの人数と配置
- 専門資格保有者の割合
- スタッフの対応態度
- 利用者との関わり方
- 研修制度の充実度
サービス内容
- 介護サービスの内容
- 医療連携体制
- リハビリテーション体制
- 食事サービスの質
- イベントや活動内容
施設との契約時の注意点
契約内容の確認
- 利用料金と支払い方法
- サービス内容の詳細
- 契約期間と更新条件
- 退去時の条件
- 損害保険の内容
重要事項説明書の確認
施設は利用者に重要事項説明書を交付し、十分な説明を行う義務があります。不明な点は遠慮なく質問し、納得してから契約を結びましょう。
家族の役割分担と準備
介護における家族の役割
主介護者の決定
主となって介護を担当する人を決めます。一人に負担が集中しないよう、他の家族メンバーとの役割分担も明確にしておきましょう。
経済的負担の分担
介護費用をどのように分担するかを事前に話し合っておくことが大切です。親の資産だけでは不足する場合の補填方法も検討しましょう。
仕事との両立
介護休業制度の活用
介護休業法により、要介護状態の家族を介護するために最大93日間の休業を取得できます。また、時短勤務や残業免除制度も利用できます。
職場への相談
介護が始まる前に、職場の上司や人事担当者に相談し、理解と協力を得ておくことが重要です。
精神的なサポート体制
相談窓口の活用
地域包括支援センターや市区町村の相談窓口を活用し、専門的なアドバイスを受けましょう。
家族の会への参加
同じような状況の家族と情報交換や相談ができる家族の会への参加も有効です。
地域包括支援センターの活用
地域包括支援センターとは
地域包括支援センターは、高齢者の生活を総合的に支援する機関で、各市区町村に設置されています。介護に関する相談や情報提供、サービス調整などを行います。
提供されるサービス
総合相談支援
高齢者や家族からの様々な相談に対応し、適切なサービスや制度の情報提供を行います。
介護予防ケアマネジメント
要支援認定者や総合事業対象者の介護予防ケアプランを作成し、自立した生活の継続を支援します。
権利擁護業務
高齢者の権利を守るため、成年後見制度の活用支援や虐待防止などに取り組みます。
相談のタイミング
介護が必要になってから相談するのではなく、親の変化に気づいた段階で早めに相談することをお勧めします。
介護保険外サービスの活用
保険外サービスの種類
生活支援サービス
- 家事代行
- 買い物代行
- 庭の手入れ
- ペットの世話
- 見守りサービス
移送サービス
- 介護タクシー
- 福祉車両による移送
- 通院同行サービス
その他のサービス
- 配食サービス
- 緊急時通報システム
- 福祉用具レンタル
サービス選択の注意点
事業者の信頼性確認
- 事業者の許可や登録状況
- 保険への加入状況
- スタッフの研修状況
- 利用者の評判や口コミ
契約内容の確認
- サービス内容の詳細
- 料金体系
- キャンセル料
- 損害時の補償
成年後見制度の検討
成年後見制度とは
認知症などにより判断能力が低下した場合に、本人の権利を守り、法的な手続きを代行する制度です。
制度の種類
任意後見制度
判断能力があるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて後見人を選任する制度です。
法定後見制度
既に判断能力が低下している場合に、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。
検討すべきタイミング
軽度認知障害(MCI)の段階で任意後見制度の利用を検討することが望ましいです。
介護に向けた書類の準備
必要書類の整理
本人に関する書類
- 戸籍謄本
- 住民票
- 健康保険証
- 介護保険証
- 年金手帳
- 障害者手帳(該当者のみ)
- お薬手帳
財産に関する書類
- 銀行通帳
- 印鑑証明書
- 不動産登記簿謄本
- 生命保険証書
- 株式などの有価証券
書類の保管方法
重要書類は家族が分かる場所に整理して保管し、コピーも取っておきましょう。また、デジタル化して複数の場所に保存することも推奨されます。
介護技術の習得
基本的な介護技術
移乗・移動介助
- ベッドから車椅子への移乗
- 歩行介助の方法
- 車椅子の操作方法
食事介助
- 安全な食事介助の方法
- 誤嚥予防のポイント
- 栄養管理の基本
入浴・清拭介助
- 安全な入浴介助
- 清拭の方法
- 口腔ケア
介護技術の習得方法
研修会への参加
地域包括支援センターや社会福祉協議会が開催する研修会に参加しましょう。
介護事業者からの指導
訪問介護事業者やデイサービス事業者から実践的な指導を受けることができます。
まとめ
介護準備の始め方について、費用の目安から施設選びのポイントまで詳しく解説しました。親の介護は突然始まることが多いため、事前の準備が欠かせません。
重要なポイントをまとめると以下の通りです。
親の健康状態と経済状況を早めに把握し、介護保険制度について正しく理解することが第一歩となります。介護費用は要介護度により大きく異なるため、複数のケースを想定した資金計画を立てましょう。
施設選びでは、費用だけでなくサービスの質や環境も重要な判断基準となります。見学時には詳細なチェックリストを活用し、納得できる施設を選択してください。
家族間での役割分担や経済的負担の分担についても事前に話し合い、一人に負担が集中しない体制を整えることが大切です。
地域包括支援センターや関連機関を積極的に活用し、専門的なサポートを受けながら介護に向けた準備を進めていきましょう。適切な準備により、いざという時も慌てることなく、親と家族にとって最適な介護を実現できるでしょう。

