【弁護士監修】起業時に絶対知っておくべき法務知識チェックリスト|会社設立から契約・雇用まで完全解説

起業を決意したとき、多くの経営者が事業アイデアや資金調達に注力します。

しかし、法務知識の不足が原因で、後から重大なトラブルに発展するケースは少なくありません。

実際に中小企業庁の調査によれば、起業後3年以内に廃業する企業の約27%が法的トラブルを経験しています。

「契約書の不備で取引先とトラブルになった」「労働法を知らずに従業員から訴えられた」「知的財産権の侵害で損害賠償を請求された」など、法務知識の欠如は事業の存続を脅かします。

目次

起業時の法務リスクを見落としていませんか?

本記事では、起業時に絶対知っておくべき法務知識をチェックリスト形式で網羅的に解説します。

弁護士の監修のもと、会社設立から日常業務まで必要な法的知識を体系的にまとめました。

この記事を読むことで、法的リスクを最小限に抑え、安心して事業をスタートできる基盤を構築できます。

会社設立時の法務チェックポイント

法人格の選択と設立手続き

起業時に最初に直面する重要な判断が、どの法人格を選ぶかという問題です。

選択肢には株式会社、合同会社、個人事業主などがあります。

それぞれの法人格には、税務上の扱い、社会的信用、設立コスト、運営の柔軟性などに大きな違いがあります。

株式会社は最も一般的な法人形態です。

社会的信用が高く、資金調達や人材採用で有利に働きます。

設立には定款認証費用5万円、登録免許税15万円など、最低でも約25万円の費用が必要です。

取締役会の設置、株主総会の開催など、運営には一定の手続きが求められます。

合同会社は2006年の会社法改正で導入された比較的新しい形態です。

設立費用は登録免許税6万円程度で済み、株式会社より低コストです。

経営の自由度が高く、利益配分も柔軟に決められます。

ただし、株式会社と比べると社会的認知度はやや劣ります。

個人事業主として開業する選択肢もあります。

開業届を税務署に提出するだけで始められ、初期コストはほぼゼロです。

ただし、事業の負債について個人が無限責任を負う点に注意が必要です。

定款作成の重要ポイント

定款は会社の憲法とも呼ばれる重要な書類です。

会社の基本的なルールを定めるもので、後から変更するには株主総会の特別決議が必要になります。

定款には絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の3種類があります。

絶対的記載事項は必ず記載しなければならない項目です。

これには目的、商号、本店所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所が含まれます。

特に「目的」の記載は慎重に行う必要があります。

将来的に行う可能性のある事業も含めて記載しておかないと、後で定款変更の手続きが必要になります。

相対的記載事項は記載しないと効力が生じない事項です。

変態設立事項(現物出資、財産引受など)、株式の譲渡制限、取締役会や監査役の設置などがこれに該当します。

株式の譲渡制限を設ける非公開会社にするかどうかは、重要な経営判断です。

譲渡制限を設けることで、望まない第三者が株主になることを防げます。

資本金設定の法的考慮事項

2006年の会社法改正により、最低資本金制度が撤廃されました。

理論上は資本金1円でも会社設立が可能です。

ただし、実務上は慎重な検討が必要です。

資本金が少なすぎると、金融機関からの融資が受けにくくなります。

取引先からの信用も得られず、ビジネスチャンスを逃す可能性があります。

一般的には、最低でも100万円以上の資本金が推奨されます。

資本金額によって税務上の扱いも変わります。

資本金1,000万円未満であれば、設立初年度と2年目は消費税の免税事業者になれます。

これは大きな節税メリットです。

ただし、資本金1,000万円以上にすると初年度から消費税の課税事業者になります。

また、資本金1億円を超えると、法人税の軽減税率が適用されなくなります。

事業計画と税務メリットを総合的に考慮して、最適な資本金額を設定することが重要です。

役員構成と責任範囲

会社設立時には役員構成を決定する必要があります。

株式会社の場合、最低限1名の取締役がいれば設立できます。

取締役会を設置する場合は3名以上の取締役と1名以上の監査役が必要です。

取締役には会社法上の善管注意義務と忠実義務が課されます。

これらの義務に違反すると、会社や第三者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

特にスタートアップ企業では、代表取締役が個人保証を求められるケースが多くあります。

役員の任期も重要な検討事項です。

取締役の任期は原則2年、監査役は4年です。

ただし、非公開会社では定款で最長10年まで延長できます。

任期を延長すると、重任登記の頻度を減らせて手続きコストを削減できます。

役員報酬の設定も法的に重要なポイントです。

役員報酬は定款または株主総会の決議で決定する必要があります。

税務上は定期同額給与でないと損金算入が認められないため、注意が必要です。

契約書作成と審査の法務知識

契約書が必要な理由と法的効力

ビジネスにおいて契約書は極めて重要な役割を果たします。

日本の法律では、一部の例外を除き、契約は口頭でも成立します。

しかし、口頭契約では後からトラブルが発生した際に、契約内容の証明が困難になります。

契約書を作成する最大のメリットは、当事者間の合意内容を明確に記録できることです。

「言った言わない」の水掛け論を防ぎ、紛争の予防につながります。

万が一トラブルが発生した場合も、契約書があれば裁判での有力な証拠になります。

契約書には法的拘束力があります。

一度締結した契約は、原則として一方的に解除できません。

正当な理由なく契約を破棄すると、債務不履行として損害賠償責任を負う可能性があります。

だからこそ、契約締結前の十分な検討と、契約書の慎重な作成・審査が不可欠です。

必須条項とリスク回避条項

効果的な契約書には必ず盛り込むべき条項があります。

まず、契約当事者の特定は最も基本的な事項です。

会社名、本店所在地、代表者名を正確に記載します。

法人の場合は登記簿謄本と照合して正確性を確認することが重要です。

契約の目的と範囲を明確に定めることも必須です。

何を提供し、何を受け取るのか、サービスの内容、納品物の仕様などを具体的に記載します。

曖昧な表現は後のトラブルの原因になります。

対価と支払条件は金銭トラブルを防ぐために詳細に定めます。

金額、支払時期、支払方法、振込手数料の負担者などを明記します。

分割払いの場合は各回の金額と期限も具体的に記載します。

契約期間と更新に関する条項も重要です。

いつから契約が始まり、いつ終わるのかを明確にします。

自動更新条項を設ける場合は、解約申し入れ期限も定めておきます。

損害賠償と違約金の条項でリスクをヘッジします。

契約違反があった場合の損害賠償の範囲や上限を定めておくと、予見可能性が高まります。

ただし、消費者契約法では過大な違約金条項は無効になる可能性があります。

知的財産権の帰属も見落としてはいけません。

制作物やノウハウの権利が誰に帰属するかを明確にします。

特にIT開発やデザイン制作などの契約では、この点が後で大きな争点になります。

秘密保持義務の条項で機密情報を保護します。

契約の過程で知り得た情報の取り扱いについて規定します。

秘密保持義務の期間、対象となる情報の範囲、例外事項なども明確にします。

契約解除条項で出口戦略を確保します。

どのような場合に契約を解除できるか、解除の手続き、解除後の処理について定めます。

無催告解除できる重大な違反事由も列挙しておくと安心です。

印紙税と契約書の形式要件

契約書には印紙税が課税される場合があります。

印紙税法で定められた課税文書に該当する契約書には、収入印紙を貼付する必要があります。

印紙税額は契約書の種類と記載金額によって異なります。

請負契約書業務委託契約書は課税文書です。

契約金額が100万円超200万円以下なら印紙税は400円、200万円超300万円以下なら1,000円です。

金額の記載がない場合は一律200円です。

売買契約書も課税対象になります。

不動産売買契約書の印紙税額は、売買金額に応じて数千円から数万円になります。

ただし、平成26年から令和9年3月31日までは軽減措置が適用されます。

金銭消費貸借契約書にも印紙税がかかります。

借入金額が100万円超500万円以下なら2,000円、500万円超1,000万円以下なら1万円です。

契約書を2通作成する場合、双方の契約書にそれぞれ印紙が必要です。

印紙税を節約する方法として、電子契約の活用があります。

電子署名法に基づく電子契約であれば、印紙税は課税されません。

近年は多くの企業が電子契約システムを導入しています。

契約書の形式要件として、署名または記名押印が必要です。

法的には署名だけでも契約は有効ですが、日本のビジネス慣習では押印が一般的です。

代表者印(実印)を押印し、印鑑証明書を添付すると、契約の真正性が高まります。

契約書が複数ページにわたる場合は、契印または割印をします。

これにより、ページの差し替えや抜き取りを防止できます。

各ページに署名押印する必要はありませんが、契印があると安全性が高まります。

契約審査のチェックポイント

相手方から提示された契約書を審査する際には、慎重な確認が必要です。

自社に不利な条項が含まれていないか、見落としがないかをチェックします。

まず、一方的に不利な条項がないか確認します。

過大な損害賠償責任、一方的な契約解除権、不合理な制限条項などに注意します。

対等な取引関係であれば、権利義務は相互的であるべきです。

曖昧な表現も問題になります。

「速やかに」「適切に」「合理的な範囲で」などの抽象的な表現は、解釈の相違を生みます。

可能な限り具体的な数値や期限で定めるよう修正を求めます。

準拠法と管轄裁判所の条項も重要です。

紛争が発生した場合にどこの法律が適用され、どこの裁判所で争うかが決まります。

相手方の所在地が遠方の場合、自社に不利になる可能性があります。

自動更新条項にも注意が必要です。

解約の申し入れ期限が短すぎないか、更新後の条件変更の可能性はどうかを確認します。

気づかないうちに不利な条件で契約が更新されることがあります。

契約審査の際は、自社の実行可能性も検討します。

契約で約束した義務を確実に履行できるか、リソースは十分か、技術的に可能かなどを確認します。

履行不能な契約を締結すると、債務不履行のリスクが高まります。

知的財産権の保護と活用

商標権の取得と管理

商標は企業のブランドを守る重要な知的財産権です。

商標登録をしないと、後から他社に商標を取られてしまう可能性があります。

起業時には必ず商標調査と出願を検討すべきです。

商標登録のプロセスは、まず特許庁のデータベースで先行商標を調査することから始まります。

同一または類似の商標が既に登録されていないか確認します。

J-PlatPatという無料のデータベースで検索できます。

先行商標がなければ、商標登録出願を行います。

出願には出願料として3,400円に区分数×8,600円を加えた金額が必要です。

1区分であれば合計12,000円です。

出願から約6か月後に審査が始まり、問題がなければ登録査定が出ます。

登録査定後、登録料を納付すると正式に商標権が発生します。

登録料は10年分一括で28,200円、5年分なら16,400円です。

商標権の存続期間は登録日から10年ですが、更新により半永久的に維持できます。

防衛商標戦略も検討すべきです。

主力商品だけでなく、将来使用する可能性のある商標も出願しておくと安全です。

また、類似商標による模倣を防ぐために、複数の類似商標を登録する企業もあります。

商標権侵害を発見した場合の対応も重要です。

侵害者に対して警告書を送付し、使用の中止や損害賠償を求めます。

交渉で解決しない場合は、商標権侵害訴訟も選択肢になります。

著作権の理解と契約での扱い

著作権は創作と同時に自動的に発生する権利です。

登録などの手続きは不要で、著作物を創作した時点で保護されます。

ビジネスでは、ウェブサイト、カタログ、ソフトウェア、デザインなど様々な著作物を扱います。

著作権には複製権、公衆送信権、翻案権など様々な権利が含まれます。

これらの権利は著作者が独占的に持ちます。

他人が無断で使用すると著作権侵害になります。

職務著作の制度を理解することが重要です。

従業員が業務として創作した著作物は、一定の要件を満たせば会社に著作権が帰属します。

要件は、法人等の業務に従事する者が職務上作成すること、法人等の著作名義で公表することなどです。

外部の業者に制作を委託する場合、著作権の帰属を契約で明確にする必要があります。

何も定めなければ、著作権は制作者に残ります。

委託者が著作権を取得したい場合は、著作権譲渡契約を締結します。

著作権譲渡契約では、どの権利を譲渡するかを具体的に定めます。

著作権は27種類の支分権の束であり、一部の権利だけを譲渡することも可能です。

また、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)は譲渡できないため、不行使特約を定めることがあります。

利用許諾契約という選択肢もあります。

著作権は制作者に残したまま、特定の目的での利用を許諾する契約です。

独占的利用許諾か非独占的利用許諾か、利用範囲、利用期間などを定めます。

第三者の著作物を利用する際は、必ず許諾を得る必要があります。

インターネット上の画像や文章を無断で使用すると、著作権侵害になります。

たとえ出典を明記しても、許諾がなければ違法です。

特許と営業秘密の保護戦略

技術系スタートアップにとって、特許戦略は競争優位の源泉です。

独自技術を開発した場合、特許出願を検討すべきです。

特許権を取得すると、20年間その技術を独占的に実施できます。

特許出願のタイミングは非常に重要です。

日本は先願主義を採用しており、先に出願した者が権利を取得します。

研究開発の初期段階から特許戦略を立て、適切なタイミングで出願する必要があります。

特許出願には専門知識が必要なため、弁理士に依頼するのが一般的です。

出願費用は明細書の作成費用を含めて30万円から50万円程度です。

審査請求料や登録料なども別途必要になります。

営業秘密として保護する戦略もあります。

特許出願すると技術内容が公開されてしまいます。

コカ・コーラの製法のように、営業秘密として守ることで長期的な競争優位を保つ方法もあります。

営業秘密として保護されるには3要件を満たす必要があります。

秘密として管理されていること(秘密管理性)、事業活動に有用な情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)です。

秘密管理性を確保するには、物理的・技術的な秘密保持措置が必要です。

文書に「社外秘」のマークを付ける、アクセス権限を制限する、秘密保持誓約書を取得するなどの対策を講じます。

不正競争防止法により、営業秘密の侵害には刑事罰が科されます。

営業秘密を不正に取得・使用・開示した者には、10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金が課されます。

法人の場合は5億円以下の罰金です。

労働法と雇用契約の実務知識

労働契約書の必須記載事項

従業員を雇用する際には、労働条件を明示する義務があります。

労働基準法第15条により、使用者は労働契約の締結時に労働条件を明示しなければなりません。

口頭での説明だけでなく、書面での交付が義務付けられている事項があります。

絶対的明示事項は必ず書面で明示しなければならない項目です。

労働契約の期間、就業の場所と従事する業務の内容、始業・終業時刻や休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払方法・締切日・支払日、退職に関する事項(解雇の事由を含む)などが該当します。

相対的明示事項は、制度がある場合に明示する項目です。

退職手当、賞与、食費や作業用品などの負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職などが含まれます。

労働契約書には就業規則との関係を明記することも重要です。

労働契約書に記載のない事項については就業規則が適用される旨を記載します。

ただし、労働契約で就業規則を下回る条件を定めることはできません。

試用期間を設ける場合は、その旨と期間を明記します。

試用期間中であっても労働契約は成立しており、正当な理由なく解雇することはできません。

試用期間の長さは3か月から6か月が一般的です。

契約社員やパートタイマーの場合は、更新の有無と更新基準を明示する必要があります。

有期労働契約の更新上限の有無、更新する場合の判断基準などを具体的に記載します。

曖昧な記載は後のトラブルの原因になります。

就業規則の作成と届出義務

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と届出が義務付けられています。

就業規則は会社のルールブックであり、労働条件や服務規律を定めるものです。

就業規則には必ず記載しなければならない事項があります。

始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払方法、退職に関する事項(解雇の事由を含む)は絶対的必要記載事項です。

退職金、賞与、最低賃金額、食費・作業用品などの負担、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、その他全労働者に適用される事項は、制度がある場合に記載する相対的必要記載事項です。

就業規則の作成には従業員代表の意見聴取が必要です。

労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴きます。

意見書を添付して労働基準監督署に届け出ます。

就業規則は従業員に周知する必要があります。

常時各作業場の見やすい場所に掲示または備え付ける、書面で交付する、電磁的方法で確認できるようにするなどの方法で周知します。

周知していない就業規則は効力が認められません。

懲戒処分を行う場合は、就業規則に根拠規定が必要です。

懲戒の種類(戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇など)と懲戒事由を具体的に定めます。

減給の制裁には法律上の上限があり、1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはなりません。

労働時間管理と残業代計算

労働時間の適正な管理は、労務管理の基本です。

労働基準法では、1日8時間、1週40時間を法定労働時間としています。

これを超えて働かせる場合は、時間外労働の割増賃金を支払う必要があります。

36協定(サブロク協定)を締結しないと、法定労働時間を超える労働をさせることができません。

36協定は労使間で締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

協定では、時間外労働をさせる業務の種類、労働者数、延長できる時間などを定めます。

時間外労働の上限規制も理解が必要です。

2019年の働き方改革関連法により、時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間になりました。

特別条項を設けた場合でも、年720時間、複数月平均80時間(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)が上限です。

割増賃金の計算方法も正確に理解する必要があります。

時間外労働(1日8時間、週40時間超)は25%以上、月60時間超の時間外労働は50%以上、休日労働は35%以上、深夜労働(午後10時から午前5時)は25%以上の割増率です。

複数の割増事由が重なる場合は、割増率を合算します。

例えば、深夜の時間外労働なら25%+25%=50%以上の割増になります。

管理監督者には労働時間規制が適用されません。

ただし、名ばかり管理職問題に注意が必要です。

管理監督者と認められるには、経営者と一体的な立場で経営に関与していること、出退勤の自由があること、地位に相応しい待遇を受けていることなどの実態が必要です。

変形労働時間制を活用すると、業務の繁閑に応じた柔軟な労働時間設定が可能です。

1か月単位、1年単位の変形労働時間制があります。

ただし、導入には就業規則への規定と労使協定の締結が必要です。

解雇と退職のルール

従業員を解雇する際には、厳格な法的ルールがあります。

不当解雇は会社にとって大きなリスクになります。

解雇が無効と判断されると、解雇期間中の賃金支払義務が発生します。

解雇の種類には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があります。

普通解雇は、能力不足や勤務態度不良などを理由とする解雇です。

整理解雇は、経営上の理由による人員削減です。

懲戒解雇は、重大な規律違反に対する制裁としての解雇です。

解雇には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です。

労働契約法第16条により、これらを欠く解雇は無効になります。

能力不足を理由に解雇する場合でも、改善の機会を与えたか、配置転換の可能性を検討したかなどが問われます。

解雇予告の手続きも守る必要があります。

解雇する場合は、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

即時解雇する場合は、解雇予告手当の支払が必須です。

整理解雇の4要件は特に厳しい基準です。

人員削減の必要性、解雇回避努力義務の履行、被解雇者選定の合理性、手続の妥当性の4つを満たす必要があります。

安易な整理解雇は不当解雇と判断される可能性が高いです。

自己都合退職の場合でも、適切な手続きが必要です。

民法では2週間前に退職の申し出をすれば退職できますが、就業規則で1か月前などの予告期間を定めることも可能です。

ただし、過度に長い予告期間は公序良俗違反になる可能性があります。

退職勧奨は解雇とは異なり、従業員の合意に基づく退職です。

退職勧奨自体は違法ではありませんが、執拗な退職勧奨は違法な権利侵害になります。

複数回の面談、長時間の説得、脅迫的な言動などは避けるべきです。

個人情報保護法の実務対応

個人情報の定義と取得時の義務

個人情報保護法は、すべての事業者に適用される重要な法律です。

顧客情報、従業員情報など、事業活動で様々な個人情報を取り扱います。

適切な管理を怠ると、法的責任だけでなく社会的信用も失います。

個人情報の定義を正確に理解することが第一歩です。

個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別できるものです。

氏名、生年月日、住所、電話番号などが典型例です。

メールアドレスや会員番号なども、他の情報と組み合わせて個人を識別できれば個人情報になります。

要配慮個人情報は特に慎重な取り扱いが必要です。

人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴、犯罪被害事実などが該当します。

これらの情報は、原則として本人の同意なく取得してはいけません。

個人情報を取得する際には、利用目的の特定と通知が必要です。

個人情報を取り扱うに当たっては、利用目的をできる限り特定しなければなりません。

取得する際には、あらかじめ利用目的を公表するか、取得後速やかに本人に通知または公表する必要があります。

直接書面で取得する場合は、あらかじめ利用目的を明示する必要があります。

会員登録フォームや申込書などで個人情報を取得する際は、その時点で利用目的を示します。

ウェブサイトであれば、プライバシーポリシーへのリンクを設置します。

適正取得の義務も重要です。

偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはいけません。

また、オプトアウト方式(本人の求めに応じて提供を停止する方式)による第三者提供を受けることができる個人情報の範囲も制限されています。

安全管理措置と委託先管理

個人情報を取り扱う事業者には、安全管理措置を講じる義務があります。

漏えい、滅失、毀損の防止など、個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。

安全管理措置には4つの側面があります。

組織的安全管理措置として、組織体制の整備、個人情報取扱規程の策定、漏えい等事案への対応体制の整備、取扱状況の把握などが必要です。

個人情報保護の責任者を明確にし、役割分担を定めます。

人的安全管理措置では、従業員への教育訓練が重要です。

個人情報の適正な取扱いについて、従業員に定期的な教育を実施します。

また、従業員との秘密保持契約の締結も効果的です。

物理的安全管理措置で、物理的なセキュリティを確保します。

個人情報を取り扱う区域への入退室管理、個人情報が記載された書類の施錠管理、機器やUSBメモリ等の盗難防止などの対策を講じます。

技術的安全管理措置では、ITシステムのセキュリティ対策が必要です。

アクセス制御、不正アクセス対策、情報システムの監視、暗号化などを実施します。

定期的なセキュリティ診断やシステムのアップデートも重要です。

委託先の監督義務にも注意が必要です。

個人情報の取扱いを外部に委託する場合、委託先に対して必要かつ適切な監督を行う義務があります。

委託先の選定基準を設け、契約で個人情報保護に関する事項を定めます。

委託先における個人情報の取扱状況を定期的に確認することも必要です。

漏えい時の対応と報告義務

個人情報の漏えい等が発生した場合の対応は、法律で義務化されています。

2022年4月の改正個人情報保護法により、一定の場合には個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必須になりました。

報告が必要な漏えい等は、要配慮個人情報の漏えい、不正利用のおそれが大きい財産的被害が生じるおそれがある漏えい(クレジットカード番号、口座番号、パスワード等)、1,000人を超える漏えいなどです。

これらに該当する場合、速報を漏えい等を知った日から3~5日以内に行い、確報を30日以内に行う必要があります。

本人への通知も必要です。

上記の報告対象事案が発生した場合、本人に対しても速やかに通知しなければなりません。

通知方法は、電子メール、書面、ウェブサイトへの掲載など、適切な方法で行います。

漏えい発生時の初動対応が重要です。

まず、漏えいの事実関係を確認し、被害の拡大を防止します。

影響範囲の特定、原因の究明、再発防止策の検討を速やかに行います。

必要に応じて、顧問弁護士や専門家に相談します。

公表の判断も重要です。

法的な報告義務とは別に、社会的責任として公表が必要な場合があります。

特に大規模な漏えいや、顧客に具体的な被害が生じる可能性がある場合は、速やかに公表して注意喚起する必要があります。

漏えいを隠蔽すると、後で発覚した際の信用失墜はさらに大きくなります。

損害賠償責任にも備える必要があります。

個人情報の漏えいにより本人が損害を被った場合、事業者は損害賠償責任を負う可能性があります。

サイバー保険への加入を検討するのも一つの対策です。

各種規制法への対応

特定商取引法と表示義務

インターネット通販や訪問販売など、特定の販売方法を行う事業者には、特定商取引法(特商法)が適用されます。

消費者保護のための規制であり、違反すると業務停止命令などの行政処分を受ける可能性があります。

通信販売を行う場合の表示義務は重要です。

広告やウェブサイトに、事業者の氏名または名称、住所、電話番号、販売価格、送料、支払時期と方法、商品の引渡時期、返品の可否と条件、申込みの撤回・解除に関する事項などを表示する必要があります。

特定商取引法に基づく表記のページを設けるのが一般的です。

このページには、上記の必要事項を漏れなく記載します。

ウェブサイトのフッターなどからリンクして、容易にアクセスできるようにします。

誇大広告の禁止にも注意が必要です。

商品の性能や効果について、著しく事実に相違する表示や実際のものより著しく優良・有利であると誤認させる表示をしてはいけません。

「絶対」「完璧」「必ず」などの断定的表現は避けるべきです。

クーリングオフ制度の対応も必要です。

訪問販売や電話勧誘販売などでは、一定期間内であれば無条件で契約を解除できます。

クーリングオフの権利について、契約書面に明記する必要があります。

訪問販売を行う場合は、契約締結前に法定書面を交付する義務があります。

事業者名、商品の種類、販売価格、支払時期と方法、商品の引渡時期、クーリングオフに関する事項などを記載した書面です。

契約締結後にも、同様の事項を記載した書面を交付する必要があります。

景品表示法と広告規制

不当な表示や過大な景品類により、消費者の適正な商品選択を妨げることを防止するのが景品表示法です。

すべての事業者に適用される重要な法律です。

優良誤認表示は禁止されています。

商品やサービスの品質、規格などの内容について、実際よりも著しく優良であると示す表示や、事実に相違して競争事業者よりも著しく優良であると示す表示です。

例えば、国産でないのに国産と表示する、科学的根拠なく健康効果を謳うなどが該当します。

有利誤認表示も禁止されています。

商品やサービスの価格その他の取引条件について、実際よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示です。

二重価格表示(通常価格と比較した割引表示)を行う場合、通常価格が実態を反映していなければ有利誤認表示になります。

比較広告を行う際は、客観的な根拠が必要です。

「業界No.1」「売上第1位」などの表示をする場合、調査データなどの裏付けが必要です。

調査の対象範囲、時期、方法なども明示することが望ましいです。

景品類の提供制限も理解が必要です。

過大な景品類の提供は禁止されています。

一般懸賞では、懸賞に係る取引価額の20倍または10万円のいずれか低い額が景品類の最高額です。

総額は懸賞に係る売上予定総額の2%以内です。

ステルスマーケティング規制も2023年10月から施行されました。

広告であることを隠した宣伝行為(ステマ)は、不当表示として規制されます。

インフルエンサーに商品を提供して宣伝を依頼する場合、広告であることを明示させる必要があります。

下請法とフリーランス保護

中小企業や個人事業主と取引する場合、下請法やフリーランス保護法の遵守が必要です。

優越的地位の濫用にならないよう注意が必要です。

下請法の適用対象を確認します。

資本金額と取引内容によって、下請法が適用されるかが決まります。

例えば、資本金3億円超の企業が、資本金3億円以下の企業に製造委託する場合は適用されます。

下請法が適用される場合、発注書面の交付義務があります。

発注後直ちに、給付の内容、下請代金の額、支払期日などを記載した書面を交付する必要があります。

口頭発注だけでは違反になります。

下請代金の支払期日も法律で定められています。

給付を受領した日から60日以内に、かつ、できる限り短い期間内に支払わなければなりません。

「翌々月末払い」などの長期の支払サイトは違反になる可能性があります。

禁止行為として11項目が定められています。

受領拒否、下請代金の支払遅延、下請代金の減額、返品、買いたたき、購入強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、割引困難な手形の交付、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しです。

フリーランス保護法が2024年11月に施行されました。

フリーランスに業務委託する場合、取引条件の書面等での明示、報酬の支払期日の設定(60日以内)、禁止行為(報酬の減額、返品、買いたたきなど)の遵守が義務付けられています。

募集情報の的確表示義務もあります。

消費者契約法と約款規制

消費者と事業者の契約には、消費者契約法が適用されます。

消費者の利益を一方的に害する条項は無効になる可能性があります。

不当な勧誘行為による契約は取り消すことができます。

重要事項について事実と異なることを告げる、将来の不確実な事項について断定的判断を提供する、不利益事実を故意に告げないなどの行為により消費者が誤認して契約した場合です。

また、消費者の住居等から退去しない、退去させない場合も取消しの対象です。

不当条項の無効も重要なポイントです。

事業者の損害賠償責任を全部免除する条項、消費者の解除権を放棄させる条項、消費者に不当に高額な遅延損害金を課す条項などは無効になります。

事業者の損害賠償責任を一部免除する条項も、事業者の重過失による場合は無効です。

平均的な損害額を超える解約料は無効です。

解約料や違約金を定める場合、それが平均的な損害額を超えていれば、超える部分は無効になります。

「一律売価の50%」などと定めても、実際の平均的損害がそれより低ければ、その部分は無効です。

約款の変更には一定のルールがあります。

定型約款(インターネットサービスの利用規約など)を変更する場合、変更が消費者の一般の利益に適合するとき、または契約目的に反せず変更が合理的なときは、変更の効力が認められます。

ただし、変更内容の周知が必要です。

暗号資産やプリペイドカードなどの約款も規制対象です。

資金決済法により、利用者保護のための一定の規制があります。

約款変更の際の届出義務、利用者への説明義務などが課されています。

データ利活用と契約実務

データ提供契約の法的論点

デジタルビジネスにおいて、データの利活用は競争力の源泉です。

他社とデータを共有・活用する際には、適切な契約が不可欠です。

データの法的性質を理解することが重要です。

データ自体には所有権は認められません。

ただし、データベースは著作権法で保護される場合があり、データの不正取得・使用は不正競争防止法で規制されます。

営業秘密として保護される場合もあります。

データ提供契約では、提供するデータの範囲を明確に定めます。

どのようなデータを、どの範囲で、どの期間提供するかを具体的に記載します。

生データなのか、加工済みデータなのか、更新頻度はどうかなども明記します。

利用目的の制限も重要な条項です。

受領者がデータをどのような目的で利用できるかを限定します。

目的外利用の禁止、第三者への提供制限、再利用の可否などを定めます。

データの品質保証と免責についても取り決めが必要です。

提供するデータの正確性、完全性、有用性について、どの程度の保証をするかを明確にします。

多くの場合、データは「現状有姿」で提供され、提供者の責任は限定されます。

対価の設定も検討事項です。

無償提供、定額課金、従量課金など、様々な対価モデルがあります。

データ利用により生じた利益の配分方法を定めることもあります。

知的財産権の帰属を明確にします。

データから生成される派生データや分析結果の知的財産権が誰に帰属するかを定めます。

共同で権利を保有する場合の取り扱いも重要です。

API連携とシステム契約

API連携により他社のシステムと接続する場合、技術的・法的な検討が必要です。

API利用規約の内容を十分に確認します。

利用条件、禁止事項、免責事項、利用制限(リクエスト数の上限など)、料金体系などが定められています。

利用規約に同意することで契約が成立するため、内容を十分理解してから利用を開始します。

知的財産権の保護も重要です。

APIを通じて取得したデータやコンテンツの利用範囲を確認します。

APIプロバイダーの商標やロゴの使用可否、使用条件なども規約で定められています。

SLAの確認も必要です。

APIの稼働率、応答時間、保守時間などのサービスレベルが保証されているかを確認します。

SLAが達成されなかった場合の救済措置(返金、サービスクレジットなど)についても確認します。

システム開発委託契約では、成果物の範囲と検収基準を明確にします。

仕様書、設計書、ソースコード、マニュアルなど、納品される成果物を具体的に列挙します。

検収の基準、期間、方法を定め、不具合があった場合の対応も明記します。

著作権の帰属と利用許諾は重要な論点です。

システム開発により生じた著作権を委託者に譲渡するか、ベンダーに残して利用許諾するかを決めます。

ソースコードの帰属、二次利用の可否、他社への提供可否なども契約で定めます。

クラウドサービス契約の注意点

クラウドサービスを利用する際には、利用規約の内容を十分確認する必要があります。

データの所在と管理責任を確認します。

データがどの国・地域のサーバーに保存されるか、データの所有権は誰にあるか、データの取り扱いに関する責任分担はどうかを確認します。

海外のサーバーに保存される場合、その国の法律が適用される可能性もあります。

セキュリティ対策の内容も重要です。

データの暗号化、アクセス制御、バックアップ体制、障害対応などについて、サービスプロバイダーがどのような措置を講じているかを確認します。

セキュリティ認証(ISO27001など)の取得状況も参考になります。

データのポータビリティも検討事項です。

サービス解約時にデータを取り出せるか、どのような形式でエクスポートできるかを確認します。

ベンダーロックインを避けるため、データの移行可能性は重要です。

サービスの変更と終了に関する条項も確認が必要です。

サービス内容の変更、料金改定、サービス終了の際の通知期間や手続きを確認します。

サービス終了時のデータ移行支援の有無も重要です。

免責条項と責任制限にも注意が必要です。

多くのクラウドサービスでは、サービスプロバイダーの責任が大幅に制限されています。

データ消失やサービス停止による損害について、どの程度の責任を負うかを確認します。

重要なシステムでは、SLAを個別に交渉することも検討すべきです。

資金調達と投資契約

投資契約の基本構造

スタートアップが資金調達を行う際、投資家との間で投資契約を締結します。

投資契約の内容は、創業者の権利や将来の経営に大きな影響を与えます。

株式引受契約が基本的な契約形態です。

投資家が新株を引き受け、会社に資金を払い込みます。

契約には、引受株式数、払込金額、払込期日、払込方法などが定められます。

株主間契約も同時に締結されるのが一般的です。

株主間契約では、株式の譲渡制限、優先買取権、共同売却権(タグアロング権)、強制売却権(ドラッグアロング権)などが定められます。

これらの権利により、株主構成の変動をコントロールします。

優先株式の発行も検討されます。

優先株式には、残余財産分配優先権、配当優先権、普通株式への転換権などの権利が付与されます。

投資家保護のための仕組みですが、創業者の権利を制限する側面もあります。

投資家の権利として、情報開示請求権や取締役選任権が設定されることがあります。

定期的な財務報告、重要事項の事前承認、取締役会へのオブザーバー参加などが求められます。

経営の自由度とのバランスを考慮して交渉する必要があります。

表明保証条項では、会社の状態について表明します。

会社の適法な設立、財務状況の正確性、知的財産権の適正な保有、訴訟の不存在などを表明保証します。

表明保証違反があった場合、損害賠償責任を負う可能性があります。

コンバーティブルノートとSAFE

初期段階の資金調達では、コンバーティブルノートやSAFEが利用されることがあります。

これらは株式への転換を前提とした資金調達手段です。

コンバーティブルノートは転換社債の一種です。

当初は負債として資金を受け入れ、一定の条件(次回の資金調達など)で株式に転換されます。

転換時の株価には割引率が適用されることが一般的です。

利息が発生する場合もあります。

SAFEはシリコンバレーで開発された仕組みです。

コンバーティブルノートと似ていますが、負債ではなく将来の株式取得権です。

利息や返済期限がないため、スタートアップにとって資金繰りの負担が少ないメリットがあります。

バリュエーションキャップの設定が重要です。

転換時の株価算定に上限を設けることで、初期投資家の利益を保護します。

キャップが低すぎると、創業者の持分が大幅に希薄化する可能性があります。

転換トリガーとなる条件を明確にします。

適格ファイナンスの実行、M&Aの発生、一定期日の到来などが転換条件になります。

条件が複雑になりすぎないよう注意が必要です。

J-KISSと日本型投資契約

日本では、J-KISS(日本版SAFE)という仕組みが開発されました。

日本の法制度に適合した形で、簡易かつ柔軟な資金調達を可能にします。

J-KISSの特徴は、将来の株式発行を約束する契約です。

一定の条件が成就したときに、投資額に応じた株式を発行する契約を締結します。

SAFEと同様に、負債ではなく将来の株式取得権として構成されています。

日本の会社法との整合性が考慮されています。

新株予約権の仕組みを活用することで、日本の法制度の下でも有効に機能します。

経済産業省も推奨しており、利用が広がっています。

投資契約書の標準化も進んでいます。

経済産業省が「モデル契約書」を公表しており、スタートアップと投資家の交渉の基準となっています。

標準的な契約条項を理解した上で、個別の事情に応じて修正します。

ベンチャーキャピタルとの契約では、より詳細な条項が求められます。

事業計画の達成度に応じた段階的な投資(マイルストーン投資)、経営陣の変更に関する条項、アンチダイリューション条項(株式価値の希薄化防止条項)などが含まれます。

これらの条項は経営の自由度に影響するため、慎重な交渉が必要です。

M&Aと事業承継の法務

M&Aの基本スキームと法的手続き

M&A(Mergers and Acquisitions)は企業成長や事業再編の重要な手段です。

適切な法的手続きを踏まないと、予期しないリスクを抱えることになります。

株式譲渡は最も一般的なM&Aスキームです。

対象会社の株式を譲り受けることで、会社の支配権を取得します。

手続きが比較的簡単で、許認可や契約関係も原則として引き継がれます。

ただし、簿外債務などの偶発債務も引き継ぐリスクがあります。

事業譲渡は、会社の事業の全部または一部を譲渡するスキームです。

譲り受ける資産・負債を選択できるため、リスクを限定できます。

ただし、個別の契約や許認可の移転手続きが必要になります。

労働者の承継には労働契約承継法が適用されます。

会社分割は、会社の事業を別会社に承継させるスキームです。

新設分割では新会社を設立して事業を移転し、吸収分割では既存の会社に事業を移転します。

包括承継なので個別の手続きは不要ですが、債権者保護手続きが必要です。

株式交換・株式移転により、完全親子会社関係を創設できます。

株式交換は既存の会社を親会社とし、株式移転は新設会社を親会社とします。

組織再編の手法として活用されます。

デューデリジェンス(DD)は買収前の調査プロセスです。

法務DD、財務DD、ビジネスDDなどを実施し、対象会社のリスクを把握します。

法務DDでは、訴訟リスク、コンプライアンス状況、契約内容、労務問題などを調査します。

株式譲渡契約の重要条項

株式譲渡契約は、M&A取引の中核となる契約です。

交渉のポイントを理解し、適切な条項を盛り込む必要があります。

譲渡価格と支払条件は最重要項目です。

株式の譲渡価格、支払時期、支払方法を定めます。

価格調整条項を設けて、クロージング時の純資産額に応じて価格を調整することもあります。

前提条件として、クロージング(株式譲渡実行)の前提となる条件を定めます。

デューデリジェンスの完了、取締役会や株主総会の承認、競争法上の届出の完了、重要な契約の同意取得などが含まれます。

前提条件が充足されない場合、取引は実行されません。

表明保証条項は最も交渉が難航する部分です。

売主が対象会社の状態について保証する条項で、違反があれば損害賠償責任を負います。

財務状況、法令遵守、訴訟の不存在、税務申告の適正性、資産の適正な保有などが対象になります。

買主は広範な表明保証を求め、売主は限定しようとするため、交渉が必要です。

誓約条項では、クロージングまでの間の対象会社の運営について制限を設けます。

通常の事業活動の範囲を超える行為(多額の借入、重要資産の処分、定款変更など)には買主の事前承認を要求します。

対象会社の価値を保全するための条項です。

補償条項で、表明保証違反や特定のリスクについて補償を定めます。

補償の範囲、上限額、請求期限などを明確にします。

税務リスクや訴訟リスクなど、特定のリスクについて個別に補償条項を設けることもあります。

競業避止義務も重要です。

売主が同種の事業を一定期間行わないことを約束する条項です。

期間は2年から5年程度が一般的です。

過度に長い期間や広範な地域での競業避止は、公序良俗違反になる可能性があります。

事業承継と相続対策

中小企業の事業承継は、経営面だけでなく法務面でも重要な課題です。

適切な準備をしないと、相続トラブルや事業の継続が困難になります。

事業承継の3つの方法を検討します。

親族内承継、従業員承継、第三者承継(M&A)があります。

それぞれにメリット・デメリットがあり、会社の状況に応じて選択します。

株式の集中と分散は重要な論点です。

相続により株式が分散すると、経営の安定性が損なわれます。

生前贈与、遺言、種類株式の活用などにより、後継者に株式を集中させる対策が必要です。

事業承継税制の活用で税負担を軽減できます。

一定の要件を満たせば、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。

2024年3月までに承継計画を提出し、2027年12月までに贈与・相続を行う必要があります。

遺言書の作成は事業承継の基本です。

公正証書遺言で作成することで、無効になるリスクを避けられます。

株式を後継者に相続させる旨を明記し、他の相続人には金銭や不動産で調整します。

遺留分対策も必要です。

遺留分とは、一定の相続人に保障される最低限の相続分です。

後継者に株式を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害する可能性があります。

生命保険の活用、代償金の準備、除外合意・固定合意の活用などで対策します。

種類株式の活用も有効な手法です。

議決権制限株式を活用することで、経営権と財産権を分離できます。

後継者には議決権付き株式を、他の相続人には議決権制限株式を相続させることで、経営権を確保しつつ財産を公平に分配できます。

紛争予防と解決手段

契約トラブルの予防策

契約トラブルは事業に大きな損害をもたらします。

予防的な対策を講じることが、最も効果的なリスク管理です。

契約書の明確な作成が最も基本的な予防策です。

権利義務、履行条件、解除事由などを具体的に定めます。

曖昧な表現を避け、数値や期限は明確に記載します。

想定されるトラブルシナリオを考え、それぞれの対応を契約書に盛り込みます。

履行管理の徹底も重要です。

契約の履行状況を定期的にチェックし、問題があれば早期に対応します。

納期遅延、品質不良、支払遅延などの兆候を見逃さないよう、管理体制を整えます。

コミュニケーションの維持がトラブル予防につながります。

契約相手と定期的に連絡を取り、状況を共有します。

問題が生じそうな場合は早めに相談し、協力して解決策を探ります。

信頼関係の構築が、トラブルの予防と早期解決に役立ちます。

契約内容の見直しも定期的に行います。

ビジネス環境の変化に応じて、契約内容が実態に合っているかを確認します。

不合理な条項や時代遅れの内容があれば、相手方と協議して改定します。

証拠の保全を日頃から心がけます。

契約書、見積書、注文書、納品書、検収書、メール、議事録など、取引に関する記録を適切に保管します。

トラブルが発生した際に、これらの証拠が重要になります。

ADR(裁判外紛争解決)の活用

紛争が発生した場合、裁判以外の解決手段も検討すべきです。

ADR(Alternative Dispute Resolution)は、時間とコストを節約できる可能性があります。

交渉による解決が最も基本的な方法です。

当事者間で直接話し合い、合意による解決を目指します。

弁護士を代理人として交渉することもできます。

柔軟な解決が可能で、関係性を維持しやすいメリットがあります。

調停は、中立的な第三者が間に入って話し合いを仲介する手続きです。

裁判所の民事調停や、弁護士会・商工会議所などが提供するADR機関の調停があります。

調停委員が双方の意見を聞き、合意形成を支援します。

合意に達すれば調停調書が作成され、裁判の判決と同等の効力を持ちます。

仲裁は、仲裁人の判断(仲裁判断)に服することを合意する手続きです。

日本商事仲裁協会などの仲裁機関を利用します。

仲裁判断には裁判の判決と同等の効力があり、強制執行も可能です。

非公開で迅速な解決が期待できますが、費用は比較的高額です。

あっせんは、あっせん人が和解案を提示する手続きです。

労働紛争では、都道府県労働局の紛争調整委員会によるあっせんが利用されます。

無料で利用でき、1か月程度で解決する場合が多いです。

オンラインADRの利用も増えています。

オンラインで調停やあっせんを行うサービスです。

時間や場所の制約が少なく、手軽に利用できます。

小規模な紛争では特に有効です。

訴訟対応の基本

交渉やADRで解決しない場合、訴訟も選択肢になります。

訴訟には十分な準備と専門家のサポートが必要です。

訴訟提起の判断は慎重に行います。

訴訟には時間、費用、精神的負担がかかります。

勝訴の見込み、回収の可能性、ビジネスへの影響などを総合的に判断します。

弁護士に相談して、訴訟以外の解決策も検討します。

証拠の収集と整理が訴訟の成否を左右します。

契約書、メール、議事録、写真、音声記録など、主張を裏付ける証拠を集めます。

証拠は時系列に整理し、弁護士に提供します。

証拠保全手続きを利用して、相手方が保有する証拠を確保することもあります。

弁護士の選任は重要です。

訴訟の種類や規模に応じて、適切な専門性を持つ弁護士を選びます。

費用の見積もりを取り、着手金、報酬金、実費の負担を確認します。

弁護士費用特約付きの保険に加入していれば、保険でカバーできる場合があります。

訴訟の流れを理解しておくことも重要です。

訴状の提出、答弁書の提出、争点整理、証拠調べ、証人尋問、判決という流れが一般的です。

第一審で1年から2年、控訴・上告を含めると数年かかる場合もあります。

和解勧告があれば、和解による解決も検討します。

保全処分の活用も検討します。

判決確定前に相手方の財産を仮差押えすることで、勝訴後の回収可能性を高めます。

契約違反の継続を仮に差し止める仮処分もあります。

保全処分には担保金の提供が必要ですが、効果的な手段です。

起業時の法務チェックリスト総まとめ

起業時に押さえるべき法務知識は多岐にわたります。

最後に、実務で使える総合チェックリストをまとめます。

会社設立段階のチェック項目として、法人格の選択は完了したか、定款の内容は将来の事業展開を考慮しているか、資本金額は税務メリットと資金調達を両立しているか、役員構成は適切か、印鑑証明書や登記事項証明書は取得したかを確認します。

契約関係のチェック項目では、基本契約書のひな型は整備したか、取引先との契約書は弁護士のレビューを受けたか、印紙税の要否を確認したか、電子契約システムの導入を検討したか、契約書の保管体制は整っているかを点検します。

知的財産権のチェック項目として、商標調査と出願は完了したか、ウェブサイトやロゴの著作権は明確か、第三者の知的財産権を侵害していないか、営業秘密の管理体制は構築したか、従業員との間で知的財産権の帰属を明確にしたかを確認します。

労務管理のチェック項目では、労働契約書は作成したか、就業規則は作成・届出したか、36協定は締結・届出したか、労働時間管理の方法は決めたか、社会保険・労働保険の手続きは完了したかを点検します。

個人情報保護のチェック項目として、プライバシーポリシーは作成したか、個人情報の取得時に利用目的を明示しているか、安全管理措置は講じているか、委託先の管理体制は確認したか、漏えい時の対応手順は整備したかを確認します。

各種規制法のチェック項目では、特定商取引法の表示義務を果たしているか、景品表示法に違反する広告をしていないか、下請法やフリーランス保護法の適用を確認したか、消費者契約法の不当条項がないかを点検します。

資金調達のチェック項目として、投資契約の内容は理解したか、株主間契約で経営の自由度は確保されているか、表明保証の範囲は適切か、エグジット時の条件は納得できるかを確認します。

紛争予防のチェック項目では、契約書は明確に作成されているか、履行管理の体制は整っているか、証拠保全の習慣はあるか、顧問弁護士は確保したか、訴訟に備えた保険は検討したかを点検します。

起業時の法務対応は、将来の事業成長の基盤を作る重要な作業です。

専門家のサポートを受けながら、一つ一つ確実に進めていくことが成功への近道です。

法的リスクを最小化し、安心してビジネスに集中できる環境を整えましょう。

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