漫画【リセット屋】第3話「母と娘」

目次

「母と娘」

前回のあらすじ

改変後の世界で順風満帆な生活を送る蓮。だが「あ」から始まる名前の人物の記憶は戻らない。リセット屋に現れた女子高生・雫は、母の事故をやり直すためにリセットを選んだ。そして蓮の会社の受付に「南条彩香」という女性が現れる——蓮はその名前に何も感じない。

第3話 本編

冒頭——雫の”あの日”

画面が切り替わる。季節は秋。雫の視点で「やり直しの1日」が始まる。

朝、目が覚めると雫は自分の部屋にいる。カレンダーには1年前の10月8日。母・彩香が交通事故で意識不明の重体になった日。雫は知っている。夕方6時23分、母は駅前の交差点でトラックにはねられる。

雫は飛び起きる。今日一日、母をあの交差点に近づけなければいい。

展開①——優しい朝の食卓

リビングに降りると、母・彩香が朝食を作っている。振り返った彩香の顔を見た瞬間、雫は泣き崩れる。

彩香が慌てて駆け寄る。「どうしたの、急に」

雫は声を絞り出す。「……なんでもない。お母さんの顔、見たかっただけ」

彩香は困ったように笑いながら、雫の頭をそっと撫でる。食卓にはふたり分の朝食。父親の席はない。雫のモノローグが入る。

お父さんは私が小さい頃にいなくなった。お母さんはそれからずっと、ひとりで私を育ててくれた。この手を、この笑顔を、私は絶対に失わない。

展開②——歯車の抵抗

雫は彩香を外出させまいと必死になる。「今日は一緒に家にいよう」と提案する。しかし——世界が修正しようとする

まず、彩香のスマホに職場から緊急の呼び出しが入る。雫が「行かないで」と懇願すると、彩香は「すぐ戻るから」と言い残して家を出ようとする。雫は玄関に立ちふさがる。

次に、近所の人が訪ねてきて「駅前で届け物を受け取ってほしい」と頼む。雫が代わりに行こうとすると、「届け先の指定が彩香さん本人なの」と言われる。

何度阻止しても、まるで運命そのものが彩香を交差点へ引き寄せている

雫は気づく。

これがリセットの”ルール”なのか。結果が変わる保証はない——ヨミはそう言っていた。

展開③——蓮の残像

雫が奔走する中、ひとつの発見がある。彩香の部屋の引き出しに、古い写真が入っている。スーツ姿の若い男性と彩香が並んで笑っている。写真の裏にはこう書かれている。

「初めてのデート 蓮くんと ——最高の日」

雫はこの男を知らない。彩香に「この人誰?」と聞くと、彩香は不思議そうに写真を見つめる。

「……誰だろう。なんでこんな写真があるんだろうね」

彩香すらも、蓮の記憶を失いかけている。蓮がリセット屋で支払った代償が、彩香の側にも波及している。雫は言いようのない不気味さを感じる。

クライマックス——夕方6時20分

あらゆる手を尽くしたが、彩香は結局「どうしても寄らなきゃいけない場所がある」と家を出てしまった。雫は全速力で追いかける。駅前の交差点が見える。時計は6時22分。

彩香が横断歩道に差しかかる。遠くからトラックのエンジン音。信号が変わる。

雫は叫ぶ。「お母さんっ!!」

彩香が振り返る。その瞬間——雫は母の腕を掴み、力いっぱい引き戻す。

トラックが目の前を通過する。風圧で雫の髪が激しく揺れる。

二人は歩道に倒れ込む。彩香は呆然としている。雫は母の体を抱きしめて、声を上げて泣く。

——間に合った。

転換——現代に戻る

光に包まれ、雫はリセット屋のカウンターに戻る。

ヨミが拍手をする。パチ、パチ、パチ。ゆっくりと、芝居がかった拍手。

「おめでとうございます。お母様の事故は”なかったこと”になりました」

雫は涙を拭いて笑う。「本当に……?お母さんは無事なの?」

ヨミがうなずく。「ええ。その代わり——お代をいただきます」

雫の表情が固まる。覚悟はしていた。一番大切な記憶をひとつ。

「あなたの一番大切な記憶。それは——“お母さんに愛されていた記憶”、そのすべてです」

雫の目が見開かれる。「それは……やりすぎじゃ——」

言い終わる前に、雫の瞳から光が消える。一瞬の空白。

そして、雫は立ち上がる。きょとんとした顔で店内を見回す。

「あれ、私……なんでこんなところにいるんだろ」

ヨミが静かに扉を開ける。「お気をつけて」

雫は何事もなかったように店を出ていく。——ポケットの中の、母と撮ったプリクラに一切目を留めることなく。

ラスト——蓮の気づき

翌日、蓮が会社の受付を通ると、南条彩香が元気に働いている。事故の傷はどこにもない。蓮はやはり何も感じない。

しかし、昼休み。蓮は給湯室で彩香と偶然ふたりきりになる。彩香が小さくため息をつく。

蓮が思わず声をかける。「何かあったんですか」

彩香は寂しそうに笑う。

「最近、娘が……なんだか私に冷たくて。前はあんなに甘えてきてくれたのに。何か怒らせたのかな」

蓮は言葉に詰まる。理由はわからない。だが、胸の奥がひどく痛む。記憶がないのに、この痛みだけが残っている

蓮はリセット屋のことを思い出す。そして確信する。

あの場所は、人を救う場所じゃない。”大切なもの”を少しずつ壊していく場所だ。

最後のコマ。リセット屋の店内。ヨミが壁の棚に、小さなガラス瓶をふたつ並べている。瓶の中にはぼんやりと光る霧のようなものが揺れている。ラベルには手書きの文字。

「黒崎蓮——恋」
「南条雫——母の愛」

ヨミが新しい空の瓶を取り出して、棚に並べる。

「さて……次のお客様の分も用意しておかないと」

次回予告

第4話「空瓶の棚」

蓮はリセット屋の”真の目的”を探り始める。ヨミは何者なのか?集められた記憶は何に使われるのか?そして蓮は気づく——自分がリセット屋に導かれたのは、偶然ではなかったことに。

第3話のポイント

この話の核心は「救いの代償」です。雫は母を救うことに成功しますが、その代わりに「母に愛されていた記憶」を失い、結果として母娘の関係は冷え切ってしまう。事故は防げたのに、二人の”絆”は壊れてしまった——望みが叶ったのに、何も救われていないという残酷な構造が、この作品のテーマを象徴しています。さらに、蓮が「記憶はないのに痛みだけが残る」という体験を通じて、リセット屋への不信と闘志を持ち始めることで、物語が「被害者」から「挑戦者」のフェーズに移行していきます。

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