漫画【リセットポイント】第2話:「謎のリスト」

ストーリー
冒頭 ― 動き出した時間
2月14日、午前7時35分。少女が降りた駅のホームで、湊は立ち尽くしている。雑踏が流れていく中、頭の中で少女の言葉がリフレインする。
「22周目で、ようやくゲームが始まる」
湊は改札を出ず、ベンチに座り込む。いつもならこの時間に会社へ向かっているはずだ。だが今日は――初めて、「いつも通り」を選ばなかった。
スマホが鳴る。会社の上司からだ。出ない。もう一度鳴る。出ない。
今日と明日で、俺は死ぬ。
その事実を、頭ではまだ受け入れられない。しかし手首に刻まれた22本の線が、それが妄想ではないと告げている。
湊は立ち上がり、記憶を頼りに少女の降りた駅の周辺を歩き始める。
少女との再会
住宅街を抜けた先の、取り壊し寸前の古いアパート。その一室のドアに、小さな猫のステッカーが貼ってある。理由はわからないが、「ここだ」と確信する。――これも、失われた21周分の記憶の残滓なのか。
ドアを叩くと、少女が驚きもせずに開けた。
「……来ると思ってた。でも、こんなに早いのは想定外」
部屋の中は異様だった。壁一面に貼られた紙、紙、紙。地図、時刻表、写真、走り書きのメモ。そしてその中心に、一冊の分厚いノートがある。
少女は名前を教えてくれた。シロ。本名かどうかはわからない。年齢も、素性も、何も語らない。ただ一つだけ答えてくれた。
「私はループしない。あなたが巻き戻るたびに、私だけがすべてを覚えている。21周分の記憶を持った、ただの人間」
つまり、シロにとってこの2日間は繰り返しではない。湊が21回死に、21回世界が巻き戻る間、シロだけは連続した時間を42日間以上、生き続けているのだ。
湊は息を呑む。「……それ、地獄じゃないか」
シロは一瞬だけ目を伏せ、すぐに表情を消す。
「同情してる暇があるなら、これを読んで」
謎のリスト
シロがノートを開く。そこには几帳面な字で、21回分の記録が並んでいた。
1周目―2/1518:03 交通事故(交差点でトラックに轢かれる)
2周目―2/1518:03 転落死(駅ホームから線路に落下)
3周目―2/1518:03 刺殺(路上で背後から刃物)
4周目―2/1518:03 溺死(公園の池に転落)
5周目―2/1518:03 感電死(自宅で漏電)
湊はページをめくる手が震え始める。窒息、落下物の直撃、ガス中毒、階段からの転落――どれも場所もシチュエーションもバラバラだ。事故もあれば、明らかに他殺としか思えないものもある。しかし死亡時刻だけが、21回すべて「18時03分」で完全に一致している。
「場所を変えても、行動を変えても、人といても一人でいても、結果は同じ。18時03分に、あなたは必ず死ぬ」
湊が声を絞り出す。「……じゃあ、何をやっても無駄ってことか」
シロが首を振る。
「無駄だったのは、あなたが覚えていなかったから。毎回まっさらな状態でループが始まり、何の対策もできなかった。でも今回は違う。あなたには記憶がある。それが22周目の意味」
共通点
湊はノートを最初から読み直す。死因はバラバラ。場所もバラバラ。だが、シロが壁に貼った地図を見つめるうちに、あることに気づく。
「……シロ。この21回の死亡場所、全部違う場所だって言ったよな」
「ええ」
「でも、ある場所を中心にした半径800メートルの円の中に、全部収まってないか?」
シロの目が見開かれる。彼女は急いで地図にピンを刺し直し、コンパスで円を描く。――完全に一致する。
21カ所すべてが、ある一点を中心とした同じ範囲内に収まっている。
その中心にある建物は――廃業した小さな時計店。「巳堂時計店(みどうとけいてん)」。
シロがノートをめくり、愕然とする。
「21周……42日間、ずっとこのノートを見てきたのに。私はこのパターンに一度も気づかなかった。なぜ……?」
湊が言う。「行ってみよう。その時計店に」
シロが湊の腕を掴んで止める。その手が微かに震えている。
「待って。一つだけ、まだ言ってないことがある」
隠された22回目の記録
シロはノートの最後のページを開く。そこには、21回の記録とは明らかに筆跡の違う、一行だけの走り書きがあった。
「22周目 桐谷湊は死なない。代わりに██████が死ぬ」
黒く塗りつぶされた部分。湊は目を凝らすが読めない。
「これは?お前が書いたのか?」
シロは首を横に振る。顔が青白い。
「違う。これは1周目が始まる前から、最初のページの裏に書いてあった。このノートを拾った時から。私はずっとこの一行を無視してきた。だって意味がわからなかったから。でも――」
シロが湊をまっすぐ見る。
「あなたが覚えている22周目が来た今、これは予言になる」
沈黙。壁に貼られた大量の紙が、隙間風でかすかに揺れる。
湊が口を開く。
「塗りつぶされた名前……お前、本当は読めてるんじゃないのか」
シロは答えない。ただノートを胸に抱きしめ、視線を逸らす。その横顔に、42日分の疲労と、何かを隠し通そうとする痛みが滲んでいる。
ラストページ
時刻は午前11時。死の刻限まで、あと31時間3分。
湊は古びたアパートを出て、巳堂時計店へ向かって歩き出す。後ろからシロが黙ってついてくる。
冬の空は灰色で、二人の息だけが白い。
湊のモノローグ:
「22回目の2月14日。俺はようやく知った。自分が何度も死んでいたことを。時刻が固定されていることを。そして――」
ポケットの中のスマホが震える。画面には、登録のない番号からの着信。出ると、ノイズ混じりの声が聞こえる。
「――桐谷さん、ですよね。時計店には行かないでください。あなたが行くと、ループが終わってしまう」
電話はそこで切れる。
湊とシロが顔を見合わせる。シロの表情が凍りつく。
――この声を、知っている。
シロが震える唇で呟く。
「……嘘でしょ。だって、この人は――3周目で、あなたの代わりに死んだはずなのに」
ループの外側に、もう一人の生存者がいた――。
第2話「謎のリスト」――完
次回予告:第3話「巳堂時計店」
錆びたシャッターの奥に刻まれた、無数の「正」の字。それは湊のものでは、なかった――。
第2話では「18:03分の呪縛」「時計店という中心点」「ノートに最初から書かれていた予言」「死んだはずの第三者からの電話」と、謎を畳みかける構成
