新しいルートで脳の構造が変化する「学び」とは何か?

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ガガログ編集部

学習による驚くべき脳の変化

人間は生涯を通じて新しいことを学び続けます。新しい知識や技能を身につけることで、脳の構造が可塑的に変化することが明らかになってきました。この脳の可塑性は、「学び」の本質を物語るひとつの重要な側面と言えるでしょう。

海馬と空間学習の関係

脳の海馬と呼ばれる領域が、空間認知や記憶形成に深く関与していることは古くから知られていました。しかし、学習によってこの海馬の構造がどのように変化するのかを、実際に計測し可視化できるようになったのはつい最近のことです。

ナビゲーショントレーニングによる海馬の変化

最新の研究では、被験者に短期間のナビゲーショントレーニングを行わせました。具体的には、運転シミュレーションゲームを用い、一つのグループには同じルートを繰り返し学習させ、もう一つのグループには20種類の異なるルートを学習させました。その後、脳のMRI画像を比較したところ、驚くべき結果が得られました。

海馬の左後歯状回に顕著な変化

同じルートを学習したグループの被験者では、海馬の中でも特に左後歯状回と呼ばれる領域に構造変化が見られたのです。この左後歯状回は、空間認知や記憶形成に中心的な役割を果たしていることがわかっています。さらに、この領域と脳の他の領域との機能的連結性が高まっていることも明らかになりました。

学習による脳の再配線現象

この発見は、学習による「脳の再配線」現象を実証する重要な一例と言えます。つまり、新しい知識や技能を習得する際に、関連する脳領域の構造が可塑的に変化し、それらの領域間の機能的ネットワークが再編成されるのです。

今回の研究では、海馬の微細な構造変化が、この領域と他の領域との通信パターンの急激な変化を伴うことが示されました。このことは、空間学習において海馬が中心的役割を果たすだけでなく、全脳的なネットワークの再編がその過程で生じていることを物語っています。

学習のメカニズムと可能性の解明へ

研究者らは、「この結果は、学習の結果としての再配線が何を意味するのかを示すものであり、大変興奮しています」と語っています。確かに、学習によって具体的にどの脳領域がどのように変化し、それらの領域間のコミュニケーションがどう変容するのかを解明することは、人間の学習メカニズムを理解する上で極めて重要な一歩となるでしょう。

さらに、こうした知見は、効果的な学習方法の開発や、認知症などの病理学的メカニズムの解明、さらには人工知能の発展にも寄与すると期待されています。人間の驚くべき可塑性と学習能力の秘密に、一層の光が当てられつつあるのです。